情報セキュリティ分野に興味を持つ大学生・大学院生の中には,「在学中に情報処理安全確保支援士を目指すこと」を検討される方もいらっしゃると思います.国内のセキュリティ資格分野では最高峰の一つとされる一方で,学習コストの大きさや知名度の問題から,取得の是非について躊躇することも多いのではないでしょうか.
本記事では,私自身が大学院在学時に情報処理安全確保支援士試験に合格した経験から,大学(院)生が情報処理安全確保支援士試験に挑戦・合格することのメリットとデメリットを,実体験に基づいてまとめました.自己研鑽の方向性や就活の参考になれば幸いです.
情報処理安全確保支援士試験とは
まずは,情報処理安全確保支援士試験の概要について,簡単におさらいしてみましょう.
・試験区分:国家試験
・試験実施団体:IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)
・試験レベル:Lv.4(高度な知識・技能)
・実施時期:年2回
・実施方式:PBT(紙試験) ※2026年度より,CBT移行予定との情報あり
・合格基準:午前Ⅰ,午前Ⅱ,午後の3試験それぞれについて,満点の60%以上を得点すること.
端的に言えば,セキュリティ系の国家試験であり,日本国内では権威ある資格試験と言っても過言ではないでしょう.
試験範囲としては,セキュリティ特化型で基本情報技術者試験,応用情報技術者試験と比較して範囲は狭くなるものの,セキュリティに関する造詣の深さを問われます.
また,午前Ⅰ試験は応用情報技術者試験の午前問題からの抜粋出題になります.従って,免除が受けられず,午前Ⅰ試験から受験する必要がある場合,実質的には応用情報技術者試験で求められる幅広い知識も必要になります.
セキュリティの分野では,暗号や認証,メール,Web,セキュアプログラミングが中心になります.近年の出題傾向についてまとめた記事(以下)もあわせてご参照いただけると幸いです.
メリット
それでは,いよいよ本題に入って大学(院)生が情報処理安全確保支援士に挑戦・合格するメリットを見ていきましょう.
就活で有利になる(ことがある)
就活生の中でも珍しい存在
在学中に情報処理安全確保支援士試験に合格する人は,そう多くはいません.
令和7年度の統計(令和7年度(春期・秋期)試験)によれば,応用情報技術者試験の学生(大学院生+大学生+短大生)者数は,1,745名であったのに対し,情報処理安全確保支援士試験の学生合格者数は,215名でした.
つまり,情報処理安全確保支援士試験の単年度合格者数は,応用情報技術者試験の単年度合格者数の約8分の1です.
参考:統計情報(応用情報技術者試験、高度試験、情報処理安全確保支援士試験) | 試験情報 | IPA 独立行政法人 情報処理推進機構
以上のことから,就活生の中でもかなり珍しい存在と言えるでしょう.
その資格を知っている面接官なら…
情報処理安全確保支援士試験の存在と難易度を知っている面接官であれば,面接中にかなりの高確率で「在学中に合格したの!?」と質問してもらえることが多いです.
ここがポイントでもあり,ネックになる部分でもあります.IPAの高度区分に属する試験は,9個もあるが故に,情報処理安全確保支援士試験の知名度・認知度はそれほど高くないのが現状です.
IT業界・IT部門に勤める人であっても,認知していないケースもあります.
正直なところ,「知ってくれていたらラッキー」くらいの気持ちでいる方が良いです.少なくとも,知られていて当然の資格ではありません.
アピールの仕方
これは私自身の経験談になりますが,面接の中で「情報処理安全確保支援士試験に合格していること」よりも,「(私の場合)3度目の受験で合格した粘り強さ,1・2回目の不合格から3回目合格に至るまでの創意工夫」の方を評価いただけることが多かったです.
新卒の面接はポテンシャル採用であることを踏まえると,「情報処理安全確保支援士試験」は裏付けのエビデンス・面接の題材ではあるものの,面接で直接的に評価されたのは粘り強さや創意工夫という印象です.
つまり,「粘り強さや創意工夫をPRできる題材として,情報処理安全確保支援士試験 合格は1つの手段にはなるが,必ずしもそれに拘泥する必要は無い」というのが私の持論です.
逆に言えば,アピールの仕方や方向性を間違うと,情報処理安全確保支援士試験に合格していたとしても,思ったほど高く評価されないという事態にもなりかねません.
Webアプリ開発との相乗効果
Webアプリケーション開発(特に,大々的なローンチ前提・認証機能実装)では,セキュリティ対策が欠かせません.CSRFやXSS,SQLインジェクション,セッションフィクセーションなど,実装すべき対策は山ほどあります.
そして,代表的なWebアプリケーションの脆弱性は,しばしば情報処理安全確保支援士試験の午後問題で出題されています.
つまり,情報処理安全確保支援士試験の勉強(座学)× Webアプリケーション開発(ハンズオン)のハイブリッド学習による高い相乗効果が期待できます.
まずは,座学で代表的な脆弱性の種類や概要を理解し,続いて実際にWebアプリケーション開発を通して,本質的な理解に落とし込むという学習方法が理想的です.試験対策にも実務にも活きる方法です.
デメリット
ここまで,メリットについてご紹介してきましたが,やはりデメリットも存在します.資格ありきではなく,デメリットも把握した上で挑戦するか否かを判断することが大切です.
資格として癖が強い
必ずおさえておきたいのは,情報処理安全確保支援士は名称独占資格であり,単に試験合格しただけでは,情報処理安全確保支援士を名乗れないという点です.
私自身も現在の立場としては,「情報処理安全確保支援士試験に合格はしたが,情報処理安全確保支援士試験ではない.」という状態です.
士業として名乗りたければ,試験合格に加えて所定の手続き(有料)が必要です.また,晴れて情報処理安全確保支援士になった後も,定期的な更新(こちらも受講費等がかかる)が必要です.
多くの人が試験に合格しても,支援士登録しないのはこれが理由です.
また,現時点では試験合格後の登録期限もありません.
Q2-2.情報処理安全確保支援士試験に合格した後、登録期限はありますか?また、登録しない場合、試験合格は無効になりますか?
登録の期限はありません。また、登録しないことにより試験合格が無効になることはありません。ただし、登録をしないと、「情報処理安全確保支援士」の名称を使用することはできませんのでご注意ください。(情報処理安全確保支援士でない方が資格名称を使用した場合、30万円以下の罰金となります。)
登録手続きや更新に要する費用は,決して安いものではなく,学生にとっては非常に大きな負担となります.つまり,合格しても扱いが難しい試験であるということです.
就活サイトの登録
上記に関連して,就活サイトの登録でもネックになるのが情報処理安全確保支援士の扱いです.
情報処理安全確保支援士試験合格後,未登録の場合,履歴書等には以下のように記述することができます.(IPAが公式に認めています.)
情報処理安全確保支援士試験に合格後、登録されていない方は、例えば次のような記載が可能です。
引用:https://www.ipa.go.jp/shiken/faq.html
- 2017年 情報処理安全確保支援士試験 合格
- 平成29年度春期 情報処理安全確保支援士試験 合格
- 情報処理安全確保支援士試験 合格
合格(未登録)者でも履歴書には,堂々と記載することができます.
問題は,就活サイトでの保有資格登録です.
「保有している資格を選択してください: ☑ 応用情報技術者 □ 情報処理安全確保支援士」
情報処理安全確保支援士の左横の□にチェックを入れて良いのか問題があります.私の場合,未登録の人がチェックを入れるのは危険だと判断し,その欄ではチェックを外した状態で別途備考欄に「情報処理安全確保支援士 合格」と記載していました.
必ずしも就活で評価されるとは限らない
先ほどのメリットで書いた「就活で有利になる(ことがある)」の裏返しになりますが,必ずしも就活で評価されるとは限りません.
中途採用であれば,募集要項の歓迎要件欄に「情報処理安全確保支援士」という文字が並ぶこともしばしばですが,新卒採用は依然としてポテンシャル重視の文化です.
やはり,資格よりもリーダーシップ発揮経験や課題解決経験に重きが置かれている点は否めません.
また,面接官が情報処理安全確保支援士を知らないこともあります.アピールしても刺さらないこともあります.「評価してもらえたらラッキー」程度の心意気で臨むのが吉でしょう.(もちろん,資格について深掘り質問されることもあるので,準備は必要です.)
報奨金を貰いたいなら入社後取得が吉
近年では,IT資格に対する資格手当や資格報奨金制度を設けている企業も非常に多くなっています.特に,情報処理安全確保支援士試験のような難関IT資格ともなると,数万~数十万円支給される企業もあります.
当然ながら,入社前に取得したものについては,対象外となってしまうことが多いので,報奨金を貰いたいなら入社後取得が吉と言えるでしょう.
※ 中には入社前取得の資格に対しても資格報奨金や資格手当を支給している企業もあります.
資格取得報奨金(基本情報技術者試験:100,000円、応用情報技術者試験:150,000円 等)※2
https://www.jtis.co.jp/recruit/graduates/information/
※2 社内規定による。資格取得報奨金は一時金です。なお、入社前に上記情報処理資格を取得している場合は、報奨額に1.2を乗じた金額を1件のみ受取ることが可能です。
時間面でのトレードオフ
一般的に情報処理安全確保支援士試験の合格には,IT経験者でも100~200時間程度,未経験者であれば600時間程度必要であると言われています.(バックグラウンドの知識や一部試験免除の有無によって,必要な勉強量は大きく変動します.)
また,これらの時間をかけたとして,必ずしも試験に合格するとは限りません.もちろん社会人と比べて学生の方が勉強時間を確保しやすいのは言うまでもありませんが,同時に学生時代の時間も貴重かつ有限であることには変わりません.
仮にもっと有意義な時間の過ごし方があるのなら,それを犠牲にしてまで取得を目指すべきかどうかは慎重に検討した方が良いでしょう.


